はじめに

こんにちは。debiru です。
しばしばアクセシビリティは高齢者・障害者のためのものであると言われることがありますが、それだけでなくアクセシビリティは健常者を含めた万人向けのものであるということを説明しに参りました。

アクセシビリティとは

物理的な世界におけるアクセシビリティとは、環境をできるだけ多くの人が利用できるようにする度合いのことを指し、Web アクセシビリティとは、Web サイトをできるだけ多くの人が利用できるようにする度合いのことを指します。

JIS X 25010 におけるアクセシビリティの定義
製品又はシステムが、明示された利用状況において、明示された目標を達成するために、幅広い範囲の心身特性及び能力の人々によって使用できる度合い

あるいは、次のように説明されることもあります。

JIS X 8341 におけるアクセシビリティの定義
様々な能力をもつ最も幅広い層の人々に対する製品,サービス,環境又は施設(のインタラクティブシステム)のユーザビリティ

ユニバーサルデザインとは

ユニバーサルデザインは、米国のロン・メイス博士によって提唱された概念で、7つの原則が提案されています。
1. 公平性:使う人が誰であっても、公平に使えること。
2. 自由度:使用するときの自由度が高いこと。例えば左利きの人でも難なく使えること。
3. 簡潔性:使い方が簡単であること。一目で使い方が分かること。
4. 明確性:必要な情報がすぐに理解できること。
5. 安全性:フェイルセーフ、フールプルーフであること。
6. 持続性:負担が少なく楽に使えること。
7. 空間性:アクセスしやすい空間と大きさがあること。例えば車椅子でも動けるなど。
アクセシビリティはとりわけ、ユニバーサルデザインにおける第一原則の公平性にフォーカスしたものと見做すことができるかもしれません。

ユーザビリティとは

前述の通り、アクセシビリティの定義としてユーザビリティが登場するケースがあることもあり、アクセシビリティとユーザビリティは混同されることがあります。
アクセシビリティは利用できるかどうかにフォーカスしているのに対し、ユーザビリティは利用できることを前提にそれが使いやすいかどうかにフォーカスしている点が異なると説明されたりもします。
「UX ピラミッド」と呼ばれる構成要素があります。
第1層:アクセスしやすい(Accessible)
第2層:使いやすい(Usable)、見つけやすい(Findable)
第3層:役に立つ(Useful)、信頼できる(Credible)
第4層:価値がある(Valuable)、好ましい(Desirable)
UX ピラミッドにおいて、アクセシビリティはユーザビリティの前段にあります。
a11y.png 25.42 KB※図は https://www.root-sea.co.jp/blog/knowhow/accessibility_01/ より引用。

障害の種類

1980年にWHO国際障害分類(ICIDH; International Classification of Impairments, Disabilities and Handicaps)が制定され、リハビリテーション医学の中でもよく用いられている3つのレベルの障害分類(機能障害〈impairment〉, 能力障害〈disability〉, 社会的不利〈handicap〉)が広く認知されるようになりました。
2001年に新国際障害分類は ICF(International Classification of Functioning, Disability and Health)と改められ、ICIDH では障害というマイナス部分のみが対象とされた点を変更し、障害のみならず健康というプラス部分を含む人間の健康状態に関わるすべてのことが対象となるように改められています。
table.png 119.1 KB※図は『WHO新国際障害分類(ICF)』日本リハビリテーション医学会 https://www.jarm.or.jp/nii/rihanews/No11/RN1124BD.HTM を基に作成。
障害はそれぞれ次のように分類されます。
Impairment(インペアメント):(身体的)機能障害
Disability(ディスアビリティ):能力障害
Handicap(ハンディキャップ):社会的不利
機能障害は「足が動かない」などの直接的障害です。一方、能力障害は「階段が上れない」などの環境に依存した障害です。階段が上れなくてもスロープがあれば車椅子で上れる場合、能力障害は解消されます。社会的不利は能力障害によって目的が達成できない場合に生じる不利益・機会損失を意味します。

アクセシビリティは誰のためのもの?

アクセシビリティやユーザビリティは、対象となるモノ(プロダクト)があって、それを利用できるか、利用しやすいかという評価基準です。それを利用する対象者のことをユーザーといいます。
ユーザーには特徴ごとにいくつかの種類が考えられます。
特性に関する多様性:年齢、性別、障害、一般的身体特性、人種と民族、性格、知識、技術など。
指向性に関する多様性:文化、宗教、社会的態度、嗜好、価値態度など。
状況や環境に関する多様性:精神状態、一時的状態、経済状態、物理的環境、社会的環境など。
特性に関する多様性は、例えば高齢や障害による身体的制約がある状況です。指向性に関する多様性は、例えば文化による記号やサインの意味の違いがある状況です。状況や環境に関する多様性は、例えば一時的に画面が見られない・音が聞けない状況です。
table2.png 131.2 KB※図は『人間中心設計入門』資料 https://www.hcdnet.org/hcd/column/materials_01/hcd-1307.html を基に作成。
こうして見ると、アクセシビリティは「特性に関する多様性」のためだけではないことが一目できるかと思います。電車の中で音が出せなかったり、ネットワーク回線が不調だったりといった一時的な環境的障害がある中でも、コンテンツを利用できるか(利用しやすいか)という問題を考慮することがアクセシビリティの向上に繋がります。音が出せない場合には、内容が伝わるようにキャプションを表示できるようにするといったことが考えられます。回線が不調な場合は全く通信できなければ仕方ありませんが、低速な通信ができる場合は、例えば画像や動画といったリソースの代わりに代替テキストを表示したり、演出のためのリソース読み込みが発生しないようなコンテンツ提供の方法を提示したりすることが考えられます。
そうした、「状況や環境に関する多様性」を考慮することが直接的に「特性に関する多様性」を考慮することにも繋がります。障害を持たれている方は、健常者が一時的に受ける環境的障害を日常的に(恒常的に)受けている状況と見做すこともできます。障害者であるかどうか、という線引きではなく、そこに(一時的な、環境的な)障害があるかどうかを考えることが大切です。つまり、ここでいう障害は健常者を含めた誰にでも生じる可能性のあるものであるということです。

さいごに

アクセシビリティは、高齢者・障害者にとって使いやすくするための施策ではなく、もっと広く万人にとってそのモノが本当に利用できることを保証するために考慮が必要なものです。それを十分に考えることは簡単ではありません。
Web コンテンツに関しては、それがアクセシビリティを十分考慮できているかを評価するための基準である WCAG  (Web Content Accessibility Guidelines) が存在しています。WCAG の達成基準を全て満たすことは項目数的、難易度的にも容易ではありませんが、これらに目を通しておくことは部分的にでもアクセシビリティの向上に寄与すると思います。

参考文献

『人間中心設計入門』資料 - 人間中心設計推進機構
アクセシビリティ女子:アクセシだSHINA!(ディレクター編)【序章】 | 株式会社ルート・シー
講座 WHO国際障害分類試案にいたる道
WHO新国際障害分類(ICF) - 日本リハビリテーション医学会